2008年 11月 09日
三日月バビロン『PHANTASMAGORIA(ファンタスマゴリア)〜水ノ回廊〜』千秋楽 |
とりあえず当面の一番の懸案だった事が昼に一区切りつき、夜は軽い開放感を伴って三日月バビロンの『PHANTASMAGORIA(ファンタスマゴリア)〜水ノ回廊〜』の千秋楽へ足を運ぶ。
初日は余り詳しい感想を書けなかったので、改めてもう少し詳しい感想を書いておこうと思う。
先ず最初に圧倒されるのは、山崎幹夫監督の映写による8mm映像による視覚効果だ。櫻木バビさんと山崎監督のコラボレーションはこれまでも三日月作品に通常の演劇では実現が困難と思える様な演出効果をあげて来たが、今回は今までの中で一番高度なものだったと思う。特に、映像の切り替えのテンポが速く、それを役者さんの演技とシンクロして行わなければならないので、山崎監督の映写がもの凄く大変だったと思うが、完璧と言って良い程見事だったと思う。
映写の切り替えの度に、映像の内容が変わるのだが、その切り替えタイミングがずれる事は全くなかった。どうやったらそんな事が出来るのだろうと不思議な位だった。山崎監督の映写技術があればこそ可能な演出であって、これを真似しようとしても出来る人はなかなかいないだろうと思う。
そして、梅原さんをはじめとして、榎本淳さん、荻須夜羽さん、かやべ せいこさんといったベテランの役者さん達の確かな力量がこのお芝居を支えていたと言えると思うし、お芝居の内容が素晴らしかったのは勿論だが、それを別にしても、これらの役者さん、ひとりひとりの演技だけでも観る価値が充分あると言えるだけの見所が満載のお芝居だったと思う。
特に荻須夜羽さん、かやべ せいこさんのお二人に関しては、毎回「ますます三日月に欠かせない存在になった」と思うのだが、今回もやはり以前にも増してその思いが強くなった。
重い内容の物語だけに、このお二人による大人の艶を伴ったユーモラスなシーンは救いとなっていたし、それでいてお芝居を軽々しいものにしてしまう様な事は全くなかった。人は時として辛い時こそ、楽しそうに振る舞ったりするものだが、この二人はそういう心情を巧みな表情や台詞のニュアンスで表現しており、行間を読ませる、いや、言外を聞かせる演技を見せてくれた。
脚本としても非常に高度なものだったと思うが、櫻木さんがその難しい演技をこの二人に要求する脚本を手加減せず書き上げたのも、この二人の実力を信頼しての事だと思う。そしてお二人はその信頼に見事に応えていたと言えるだろう。
そして、特筆すべきは主役の大役を果たした綾瀬 雫さんの演技だろう。僕は『リンデンバウム〜回転木馬の柩〜』<完全改訂版>の感想で、綾瀬 雫さんの演じたコウジュ役を初演の梅原さんに比べると物足りなかったという様な事を書いた。勿論、綾瀬さんがベテランの梅原さんと同レベルの演技が出来る筈もなく、それは仕方ない事であるし、むしろ若手としては難しい役をよく務めていたと思う。
しかし、今回は主役でしかもコウジュとはまた質の違った狂気を秘めている難しい役を本当に見事に演じていたと思う。
周囲の空気を切り裂く様な激しい狂気を放っていたコウジュと違い、今回演じた美雨はさざ波の様に寄せて来る狂気に抗い、自分を強く保とうとするという様な役だ。その狂気の理由に付いては、断片的に少しずつしか語られず、またその狂気の表現もストレートなものではなく、じわじわと観客に染み込む様に伝わっていく様なさりげない演技を要求されている様で、やはり言葉ではなく、表情で多くを語らなければならないという、非常に難しいものだったと思う。
コウジュ役について書いた時にも書いた事だが、狂気の表現というものは中途半端になってしまうと陳腐になってしまう危険性が高く、それもそれが主役の演技ともなると、お芝居そのものをぶち壊していまいかねない程大変なものだと思う。
その難しい役を主演は初めての綾瀬さんが見事に演じ切っていたのには、本当に感服する以外ないと思う。
前公演の『リンデンバウム〜回転木馬の柩〜』<完全改訂版>では、やはり主役を演じた木原 春菜さんに驚かされたばかりだが、今度は綾瀬さんに驚かされる事になった。こんなにスケールの大きな若手が二人も同時期に出現したというのは、もう奇跡と言って良い程ではないかと思う。
その木原さんも、今回は出番は少なかったが、その少ない出番で強烈な印象を残して、その存在感の高さを示してくれた。
今度はこの二人ががっぷりと四つに組んで演技する所を是非観てみたいと思う。次回の公演にそれを期待するのはまだ気が早いだろうか?
今回の作品で作・演出家として大きく幅を広げて、新たな魅力を見せてくれた櫻木バビさんの今後の方向性も含めて、これからの三日月バビロンの行く先が楽しみで仕方がない。
初日の感想では、言葉が足らず今作のラストシーンが盛り上がりが足りないものの様に受け取られる様な書き方に見えたかもしれないが決してそうではない。
これから始まる未来に対する、静かだけど力強い希望と期待を感じさせてくれる上質で秀逸なラストだったと思う。それはじわじわと沸き上がる様な感動をもたらせてくれるものだった。
そして、そこに描かれていた、これから訪れる明るい未来への予感。それは新生三日月バビロンはまだまだ始まったばかりで、今後もっと新しい世界を見せてくれるのだという事を暗示していたのではないかという気がしてならない。
初日は余り詳しい感想を書けなかったので、改めてもう少し詳しい感想を書いておこうと思う。
先ず最初に圧倒されるのは、山崎幹夫監督の映写による8mm映像による視覚効果だ。櫻木バビさんと山崎監督のコラボレーションはこれまでも三日月作品に通常の演劇では実現が困難と思える様な演出効果をあげて来たが、今回は今までの中で一番高度なものだったと思う。特に、映像の切り替えのテンポが速く、それを役者さんの演技とシンクロして行わなければならないので、山崎監督の映写がもの凄く大変だったと思うが、完璧と言って良い程見事だったと思う。
映写の切り替えの度に、映像の内容が変わるのだが、その切り替えタイミングがずれる事は全くなかった。どうやったらそんな事が出来るのだろうと不思議な位だった。山崎監督の映写技術があればこそ可能な演出であって、これを真似しようとしても出来る人はなかなかいないだろうと思う。
そして、梅原さんをはじめとして、榎本淳さん、荻須夜羽さん、かやべ せいこさんといったベテランの役者さん達の確かな力量がこのお芝居を支えていたと言えると思うし、お芝居の内容が素晴らしかったのは勿論だが、それを別にしても、これらの役者さん、ひとりひとりの演技だけでも観る価値が充分あると言えるだけの見所が満載のお芝居だったと思う。
特に荻須夜羽さん、かやべ せいこさんのお二人に関しては、毎回「ますます三日月に欠かせない存在になった」と思うのだが、今回もやはり以前にも増してその思いが強くなった。
重い内容の物語だけに、このお二人による大人の艶を伴ったユーモラスなシーンは救いとなっていたし、それでいてお芝居を軽々しいものにしてしまう様な事は全くなかった。人は時として辛い時こそ、楽しそうに振る舞ったりするものだが、この二人はそういう心情を巧みな表情や台詞のニュアンスで表現しており、行間を読ませる、いや、言外を聞かせる演技を見せてくれた。
脚本としても非常に高度なものだったと思うが、櫻木さんがその難しい演技をこの二人に要求する脚本を手加減せず書き上げたのも、この二人の実力を信頼しての事だと思う。そしてお二人はその信頼に見事に応えていたと言えるだろう。
そして、特筆すべきは主役の大役を果たした綾瀬 雫さんの演技だろう。僕は『リンデンバウム〜回転木馬の柩〜』<完全改訂版>の感想で、綾瀬 雫さんの演じたコウジュ役を初演の梅原さんに比べると物足りなかったという様な事を書いた。勿論、綾瀬さんがベテランの梅原さんと同レベルの演技が出来る筈もなく、それは仕方ない事であるし、むしろ若手としては難しい役をよく務めていたと思う。
しかし、今回は主役でしかもコウジュとはまた質の違った狂気を秘めている難しい役を本当に見事に演じていたと思う。
周囲の空気を切り裂く様な激しい狂気を放っていたコウジュと違い、今回演じた美雨はさざ波の様に寄せて来る狂気に抗い、自分を強く保とうとするという様な役だ。その狂気の理由に付いては、断片的に少しずつしか語られず、またその狂気の表現もストレートなものではなく、じわじわと観客に染み込む様に伝わっていく様なさりげない演技を要求されている様で、やはり言葉ではなく、表情で多くを語らなければならないという、非常に難しいものだったと思う。
コウジュ役について書いた時にも書いた事だが、狂気の表現というものは中途半端になってしまうと陳腐になってしまう危険性が高く、それもそれが主役の演技ともなると、お芝居そのものをぶち壊していまいかねない程大変なものだと思う。
その難しい役を主演は初めての綾瀬さんが見事に演じ切っていたのには、本当に感服する以外ないと思う。
前公演の『リンデンバウム〜回転木馬の柩〜』<完全改訂版>では、やはり主役を演じた木原 春菜さんに驚かされたばかりだが、今度は綾瀬さんに驚かされる事になった。こんなにスケールの大きな若手が二人も同時期に出現したというのは、もう奇跡と言って良い程ではないかと思う。
その木原さんも、今回は出番は少なかったが、その少ない出番で強烈な印象を残して、その存在感の高さを示してくれた。
今度はこの二人ががっぷりと四つに組んで演技する所を是非観てみたいと思う。次回の公演にそれを期待するのはまだ気が早いだろうか?
今回の作品で作・演出家として大きく幅を広げて、新たな魅力を見せてくれた櫻木バビさんの今後の方向性も含めて、これからの三日月バビロンの行く先が楽しみで仕方がない。
初日の感想では、言葉が足らず今作のラストシーンが盛り上がりが足りないものの様に受け取られる様な書き方に見えたかもしれないが決してそうではない。
これから始まる未来に対する、静かだけど力強い希望と期待を感じさせてくれる上質で秀逸なラストだったと思う。それはじわじわと沸き上がる様な感動をもたらせてくれるものだった。
そして、そこに描かれていた、これから訪れる明るい未来への予感。それは新生三日月バビロンはまだまだ始まったばかりで、今後もっと新しい世界を見せてくれるのだという事を暗示していたのではないかという気がしてならない。
by ko1kubota
| 2008-11-09 23:44
| Artist