2004年 04月 08日
My Digital Camera Histry Vol.2 オリンパス E-10 |
カメラ雑誌のEOS D30の記事を読みあさった僕は、ISO1600までの撮影が可能で、プロカメラマンがISO800までは実用になるとコメントしているのに大きく惹き付けられた。そして、実際にISO800で撮影されたサンプルは非常に綺麗だったのだ。
僕は銀塩での撮影では基本的にはISO400のフィルムを使用していた。ISO800やISO1600のフィルムを使用した事もあったが、その画質には充分満足は出来なかった。
35万円という価格は当時の僕には手が出なかったが、1、2年待てばもっと価格も下がるだろうと考えて、1、2年後にはデジタル一眼レフを購入したいと考えた。しかし、問題は現時点の撮影にフォルム代現像代が異常にかかることだ。
D30を購入したユーザーの体験談を聞くと、フィルム代現像代がかからなくなったので、ランニングコストを考えると決して35万円は高くないという意見が多かった。つまり、銀塩一眼レフでバリバリ写真を撮っていると、それだけお金がかかるのだ。
そして、その当時の僕がD30に手が出せなかったのは、そのフィルム代現像代がかかり過ぎて万年金欠病だったからに他ならない。このまま今まで通りフィルム代現像代を使い続けたらいつまで経ってもデジタル一眼レフには手が出せないかも知れない。
かえって、一日も早くデジタル一眼レフを購入してしまった方が、その瞬間からフィルム代現像代がかからなくなるのだから、その方が得策だ。いっそのこと無理してクレジットでD30を買ってしまおうか?しかし、やはり35万円は高すぎる・・情けない事に既に結構クレジットに頼っていた当時の僕のクレジットカードの利用可能残高はもっとずっと低かったのだ。悶々としながらカメラ雑誌を読みあさっていた僕はある機種の記事に目を留めた。
それがオリンパスのE-10だった。E-10はレンズ固定式のデジタル一眼レフで、D1やEOS D30のAPS-Cサイズの撮像素子に比べるとかなり小さくはあったが、他のレンズ固定のデジカメに比べると大きなサイズの2/3型CCDを搭載したモデルだった。
定価は19万円したが、当時の実勢価格は15万円前後、中古なら11、2万円で購入できた。
レンズ交換式のデジタル一眼レフまでの繋ぎにこの機種を買うというのはどうだろう?という考えが浮かんだ。CCDサイズが小さいし、全面的に銀塩から移行するのは無理かも知れないが、銀塩と併用出来ればフィルム代現像代を節約する事は出来るかも知れない。
いてもたってもいられなくなった僕は、とりあえず量販店の店頭で実機を確認することにした。先ず、憧れのEOS D30を手に取って確認した僕は次にE-10のデモ機を手に取った。
思ったより大柄で、マグネシウムボディを身にまとったE-10は、質感が高く金属ボディのひんやりとした手触りも良好で、エンジニアリングプラスチックボディのEOS D30よりも高級感があるほどだった。そして、F2.0-2.4という銀塩一眼レフの交換レンズでは考えられないほど明るい大口径のズームレンズもCCDの小ささを考えると異常とも思えるほど大きく、非常に立派な物だった。
外観の高級感に好感触を抱いた僕は、次にファイダーを覗いてシャッターを切った。
その瞬間、僕は一瞬「壊れている?」と思った。何故ならシャッター音がしなかったからだ。でもファインダーはブラックアウトした様だった。「あれ?おかしいなあ?」そう思いながら、もう一度シャッターを切る。するとやはりファインダーはちゃんとブラックアウトする。メモリーカードは挿入されていなかったので、実際に撮影したデータを再生して確認することは出来なかったが、ファインダーがブラックアウトするからにはシャッターは壊れているわけではなく、ちゃんと機能しているようだ。
その時、僕は顔中に笑みが広がっていくのを抑えることが出来ていなかったと思う。僕は理解したのだ。理由は分からないが、このカメラは一眼レフにも関わらず、ほとんど聞こえないほどシャッター音が小さいのだ。これ以上、ライブ撮影、舞台撮影に適した一眼レフが他にあるだろうか?!
カタログを貰って帰った僕は、その理由を知ることになる。通常の一眼レフには、レンズを通ってきた象をファインダーへ導く為に可動式のミラーがあり、シャッターを切るとこのミラーは跳ね上がって、光は直進してその先にあるフィルムまたは撮像素子に像を投影するのだが、E-10はその可動ミラーの位置にプリズムを配置して、レンズを通ってきた光を分光し、20%をファインダーへ、残りの80%を撮像素子であるCCDへ導いているのだ。その為、ミラーの可動音がしなかったのだ。
更に、通常の一眼レフは、フィルム面か撮像素子の表面の直前にフォーカルプレーンシャッターという大きな金属製シャッターがあり、移動量も多いため、結構大きな音がする。しかし、E-10はこのフォーカルプレーンシャッターが擦れることで発生する金属粉がCCDの表面に付着することを嫌って採用せず、レンズ固定式であることを生かして、レンズシャッターを搭載していたのだ。
レンズシャッターであれば、光が収束して点の様になっている場所で動作するので、小さくて済むし移動量も小さいので作動音が非常に小さいのだ。
気持ちは購入に大きく傾いたが、不安もあった。ひとつは最高感度がISO320と低いこと、二つ目は雑誌のレビューで目にした書き込み処理が遅いという問題、最後のひとつは暗所AF性能とAFスピードだった。
ISO感度の問題は元々ISO1600まで設定可能なEOS D30に惹かれたのがデジタル移行を考えたきっかけだったので、余りに物足りないと言わざるを得ないが、銀塩ではISO400のフィルムを使用していて、明るい単焦点をメインに使っていたが、F2.8のズームを使うこともあったので、E-10のレンズがF2.0-2.4という明るいズームレンズであることを考えると、全てのケースで銀塩の代替とするのは無理かも知れないが、可能な範囲で併用するなら充分使えるだろうと考えた。
書き込みの遅さはデジカメの経験がないだけに実感としては分かり難かった。E-10は1枚書き込むのに約6秒強の時間を要する。これでは余りに遅すぎるが、5枚分のキャッシュメモリがあるので、5枚までは書き込み処理を意識しないで撮影が可能だ。もし1秒1枚の間隔で撮影していけば、5枚目を撮り終わった後1秒待てば6枚目が撮れる事になるが、それ以後は6秒間隔でないと撮れなくなる計算だ。それが実際の感覚としてはどうなのか試してみたかった。
また、AFに関しては通常の一眼レフはTTL位相差式という方法を用いているが、E-10はその特殊な構造故かTTL位相差式ではなく、CCDコントラスト検出式とアクティブ式のハイブリッドAFを採用していた。
デジカメに一般的に採用されているCCDコントラスト検出式はスピードが遅いことが欠点だが、E-10は赤外線で測距するアクティブ式と併用することでスピードアップを図っている。そして、アクティブ式併用の利点として暗所でのAFは強いはずだ。
しかし、量販店でデモ機を操作した時はTTL位相差式と思い込んでいたので、AFには注目していなかった。違和感を感じなかったので、スピードは問題ないという事だと思われたが、暗所AF性能を含めてその実力を確認しておきたかった。
量販店に置かれていたデモ機にはメモリーカードが入っていなかったが、オリンパスのショールームに行けば実写可能なデモ機があると聞いて、確認に出かけることにした。
ショールームのデモ機で実際の撮影をイメージしながらリズム良く撮影してみるが、確かに書き込み処理が遅い。意識してゆっくり目にリズムを取ってみたり色々試してみて、確かに問題だが、その問題を理解して使いこなすようにすれば何とかなるのではないかと判断した。
また、その際もAFスピードに関しては問題は感じなかった。凄く速いとは言え無いが、普及クラスの一眼レフと比べるのなら遜色ないレベルだと感じた。
次は暗所AF性能の確認だ。デモ機の乗っていたテーブルの下の暗い部分を撮影してみたが、迷うこともなくあっさりとAFが合い、想像以上の暗所AF性能の高さに感心させられた。
そして、撮影した画像を再生してもっと驚かされることになった。テーブルの下の暗がりが非常に明るく鮮明に写っていたのだ。それは銀塩ではとても考えられない明るさだった。
調べれば調べるほどE-10はライブ撮影、舞台撮影に最適のカメラだと思えてきて、最早迷うことはないと決意した。
実際にライブ撮影や舞台撮影を行って、その印象が間違っていないことを確認した。銀塩一眼レフのEOS 100ではAFが合わなかった様な暗さでも難なくAFが合い、今まで撮れなかったと思われるシーンが撮れることは嬉しかったし、暗いシーンが明るく鮮明に写ることも感動的だった。
そして何より嬉しかったのは、シャッター音が本当にほとんど聞こえないくらい非常に静かだった事だ。
そして、心配していたISO感度の問題は、撮影時に1〜2EV暗めに補正して後からレタッチで明るめに調整することでかなり対応可能な事が分かった。
元々E-10の露出傾向はどちらかというと暗めの傾向にある銀塩EOSの露出傾向より明るめであり、普段の撮影でも-0.7EVのマイナス補正を加えてちょうど良いくらいだったので、実際には-0.3〜-1.3EV程度暗めに撮っているという感覚だ。
感心したのはE-10のCCDは暗部ラチチュードはかなり広く、ノイズ特性も良好だったので、この様に暗めに撮って後処理で明るめに補正しても、綺麗な色が出たし、不快な暗部ノイズが浮き上がって来ることもなかった事だ。
-2EVした場合は、実質的にはISO1280相当で撮影しているのと同等という事になるので、ほとんど困ることはなかったし、その時の画質も標準のISO感度から約2倍の疑似増感撮影をしている事を考えると驚くほど綺麗だった。
僕はその後ニコンD100、キヤノンEOS 10Dという標準でISO1600まで使用できるデジタル一眼レフを購入する事になるのだが、それらの機種は疑似増感撮影のような面倒なことをしなくて良くなったのは有り難かったが、ノイズ特性は思ったより良くなく、今でもE-10のCCDは銘CCDだったと実感している。
それとオートホワイトバランス(AWB)の優秀さにも感心した。D1やEOS D30の記事ではAWBの性能はイマイチで、WBを太陽光にセットした方が無難だとあったので、最初は太陽光で撮影していたのだが、夕焼けの撮影等でテストした所、AWBでも太陽光で撮ったのと同じように夕焼けの雰囲気を再現してくれる事が分かり、それからはAWBでしか撮らなくなった。
蛍光灯の緑被り等はきっちり補正するが、タングステン灯の雰囲気は適度に残して補正するなど、撮影者が期待するのに近い色温度の制御がされており、ライブ撮影や舞台撮影の様なミックス光源下でも安心して撮影することが可能だった。
しかし、E-10にも問題が無かった訳ではない。そのひとつは描写性の問題だ。E-10はCCDサイズが小さいので被写界深度が深く、引きのシーンなどは有り難かったのだが、アップの場合は背景のボケが小さく、銀塩に比べると立体感に欠ける描写になるのはいかんともしがたかった。
勿論、それは最初から分かっていたので繋ぎと考えていたし、アップ中心で銀塩も併用していたのだが、使っている内に暗所に強くて嬉しかったAFが、スモークを焚くシーンなどで、赤外線が乱されてAFが誤動作する事が分かり、またその様な時はアクティブAFを切って、CCDコントラスト方式のみで動作させることも可能だったが、その場合はライブ撮影や舞台撮影に使うにはAF性能が弱すぎる事も分かった。
加えて、何とかなると思っていた書き込み処理の問題も、実際に使ってみると書き込み待ちでシャッターを切りたい時に切れないという状況が頻繁に発生し、辛い思いをする事も多かった。
やはり、なるべく早い時期にレンズ交換式のデジタル一眼レフに移行したいという気持ちが切迫したものになっていった。
僕はE-10のCCDへのゴミ付着問題に対するオリンパスの姿勢に共感し、その結果としてのシャッター音の静かさに感動していたので、オリンパスから発売予定だったレンズ交換式一眼レフの発売に期待していたのだが、その発表は当初の予定より次々と延期されてしまい。とてもその発売までは待てないという状況になってしまった。
しかし、E-10は僕にデジタル一眼レフの素晴らしさを教えてくれたし、条件が厳しいライブ撮影や舞台撮影では、やや荷が重かったが、それでも驚くほどの頑張りを見せてくれたし画質も良く、素晴らしい銘機だったと思う。
by ko1kubota
| 2004-04-08 19:52
| Camera