2004年 04月 15日
My Digital Camera Histry Vol.3 ニコン D100 |
キヤノンのEOS D30の発売からデジタル一眼レフの購入を考え始めた僕だったが、その後のユーザーの使用感などを調べるに連れ、EOS D30には暗所AF性能が弱いという弱点があることが分かった。事実EOS D30のAF輝度範囲は2EV〜というスペックで0EV〜のEOS 100に比べてもかなり暗い場所に弱いのが分かる。
使用しているユーザーによれば薄暗い程度でもAFが迷ってなかなか合わないという事で、ライブ撮影、舞台撮影に使うにはかなり力不足であるのは確実のようだった。
E-10からレンズ交換式のデジタル一眼レフへの移行を切実に考えなければいけなくなった僕は、EOS D30の後継機種EOS D60に期待したが、EOS D60は300万画素から600万画素へ画素が増えたのに伴い、一画素のフォトダイオードの受光面積が小さくなった為感度が落ちてしまい、最高感度がEOS D30のISO1600からISO1000に下がってしまった。
AF輝度範囲は2EV〜から0.5EV〜とカタログスペック上は幾分向上したが、実際にEOS D30からEOS D60へ買い換えたユーザーの感想としてはほとんど変わっていないというものだった。
暗所AF性能も最高感度もライブ撮影、舞台撮影に使用することを考えると不満だった。最高感度E-10のISO320から考えると、まだ妥協も出来たが暗所AF性能は致命的だ。しかし、実勢価格29万円という今回も期待したより高めの価格だったが、この価格で購入できるデジタル一眼レフが他に存在しないのも事実だった。
EOS D30以外のデジタル一眼レフとなると、一番安価なモデルが37万円のFUJIFILMのFinePix S1 Proだった。S1 Proはベースモデルがニコン F60でありそのボディの機能の低さと、連写性能やバッファ容量が少ないのが不満で、EOS D60よりも総合性能では劣るのにも関わらず高価なのも納得がいかなかった。
それ以上となるとプロ用の上級機種になってしまうが、その中でもニコンのD1はそろそろ中古価格も手が届く所まで下がってきていたので、中古でのD1購入を考えてD1について色々調べる様になった。
そんな時に発売されたのがニコン D100だった。数ヶ月先行して発売されたEOS D60が人気の高さに対し、生産量が少なく品薄が続いているという状況で発売されたD100は、キャノンが自社製のCMOSを採用していたのに対し、ソニー製の汎用量産CCDを採用する事によって、EOS D60より数万円安い23万円前後の実勢価格を実現すると共に安定した量産を可能にしていた為、なかなか納品されないEOS D60の予約をキャンセルして購入するユーザーも少なくない程の人気を集め、キヤノンからデジタル一眼レフのシェア1位の座を奪い取るほどのヒット商品となった。
プラスチックボディで質感が高くないと批判されることが多いEOS D60に比べ、同じくプラスティックボディではあったが、一件マグネシウムボディを思わせる表面処理を施してプラスチックとは思えない質感を与えたり、ペンタ部のロゴをプリントではなくエンボス処理するなど、質感の高いボディが高く評価され、レリーズフィーリングもEOS D60よりも良好であるなど、カメラとしてのグレードが高い点も人気の理由となった。
その一方で、RAWデータで撮影し専用ソフトで現像すれば、非常に解像感のある画像が得られるのに対し、ボディ内で現像してJPEGデータとして保存した場合は、シャープネスの不足した眠い画像に仕上がる事が、JEPGでもRAW現像と変わらないシャープな画像が得られるEOS D60と比較すると不満であるとしてネット上でも話題になる等、搭載している画像処理エンジンの能力が不足しているのではないかと思えある部分もあり、またバッファ容量もEOS D60よりも少ないなど、デジタル部に関してはEOS D60より力不足と思える部分もないではなかった。
しかし、最低感度がISO200とEOS D60のISO100より高いこともあり、最高感度はISO1600を実現しており、しかもISO3200相当、ISO6400相当の増感モードを搭載しているのは僕にとっては大きな魅力だった。
また、AF輝度範囲は上位機種のD1と同等の-1EV〜を実現しており、当時の最上位機種のEOS-1Vでも愛機EOS 100と同等の0EV〜であることを考えるとキヤノンユーザーの僕にとっては驚きのスペックだった。
スポーツのキヤノン、報道のニコンとよく言われるように、ニコンは伝統的に報道関係に強く、報道カメラマンのプロユーザーも多い。報道の用途を考えると、暗くてもとにかく写る事が要求される事も少なくないのだろう。それが暗所AF性能の高さにも現れているのだろうし、キヤノンにはないISO3200相当以上の増感モードの搭載にも現れているだろうと思った。
暗所AF性能と最高感度は何の不足もない。しかし、E-10からの移行が切実になった原因には書き込み処理の遅さも理由にあっただけに、バッファ容量の不足はやや気になった。
D100のバッファはJPEGでの連続撮影で6枚分であり、EOS D60と違ってシングルバッファ式だ。対するEOS D60のバッファは8枚分と2枚分多いだけだが、セカンドバッファ式のため、ファーストバッファは瞬時に開放され、セカンドバッファが満杯になるまでは実書き込み時間を気にすることはない。だが、シングルバッファ式のD100の場合は、6枚分のバッファを使い切った時点から実書き込み時間を待たないと次の撮影が出来なくなる。
量販店にデモ機が並ぶのを待って、その書き込み時間を確認することにした。実書き込み時間は約2秒かかる。E-10の約6秒から考えると約3倍も速いのは確かだ。しかし、それでも本当に充分かどうか確信は持てない。買ってみて充分ではないと思ってからでは遅すぎる。万が一そう感じたときに対処法はあるだろうか?
JPEGの圧縮率を上げる、記録解像度を下げるといった設定変更を試してみると、300万画素モードで圧縮率を1段上げると書き込みの実時間は約1秒まで短縮されることが分かった。300万画素と言えば、つい数ヶ月前まで現行機種だったEOS D30と同じ画素数だし、前年に発売されたばかりのD1Hの270万画素よりも多い位だ。万が一の時は充分妥協可能な画素数だし、約1秒のインターバルなら先ず問題はないだろう。
これで僕はD100の購入を決意した。一般的にはマウント変更によってレンズを揃え直しになる一眼レフのメーカー変更はハードルが高いものだが、僕にとってはライブ撮影、舞台撮影に充分使えるだけの暗所撮影能力の高さは何より重要だったので、その点は気にならなかった。
キヤノンには僕の必要とする能力を備えた機種はなく、ニコンにはそれがある。それが全てだった。
また、あれほどEOS D30ユーザーから不満の声が高かった暗所AF性能がEOS D60でも改善されなかったことから、将来的にもキヤノンから暗所撮影性能の高いモデルが発売される可能性も低いと判断した。それは報道用途を重視するニコンとの決定的な社風の差であると判断したのだ。少なくとも最高機種のEOS-1VのAF輝度範囲が0EV〜である以上、D100並の暗所AF性能のモデルが発売される可能性は低いだろうと思った。
それに、今後画素数が増えたとしても減ることはない筈だから、将来的に見ても最高感度の低さが改善される可能性も低いだろうと判断した。
結果的にはこの予想はどちらも見事に外れることになるのだが、それは重要ではない。とにかくその時点では僕の要求を満たすモデルはニコンにしか存在しなかったという事が何より重要なのだ。
だから当時の僕は銀塩一眼レフはキヤノンだったが、デジタル一眼レフはニコンで行くと心に決めてD100の購入を決意した。だが、EOS 100も交換レンズも処分はしなかった。EOS 100があったから撮れた写真、EOS 100がなかったら撮れなかった写真が一杯ある。それらの写真を撮ってくれたEOS 100も交換レンズも僕にとっては宝物であり、手放す気にはなれなかったからだ。
D100本体をクレジットで購入した僕は、レンズは少しでも安価で手に入れるため、中古カメラ店やオークションで可能な限り安いレンズを探して、必要なレンズを数ヶ月かけて揃えた。ライブ撮影や舞台撮影の使用を考えて明るい単焦点レンズが中心で、どのレンズもその焦点距離で最も明るいレンズを選んだ。
迷ったのは85mmのレンズで、最も明るいのはF1.4だったが、F1.8のレンズもあり、それでも明るさは充分に思えた。価格が3倍近く違うためかなり迷ったのだが、結局F1.4の方を購入した。
それもデジタルはニコンで行くという決意の現れだった。どうせ長く使うのだから、多少高くても少しでも良いレンズを揃えようと思ったのだ。実際に手に入れたAF Nikkor 85mm F1.4Dは巨大なガラスの固まりのような迫力のあるレンズで、描写も非常に美しく正に一生物に思えた。
D100の暗所撮影性能は予想以上だった。E-10のアクティブAFと違って真っ暗だと流石に合わないが、その場合はノンストロボでは何も写らないので、ライブ撮影、舞台撮影には意味がない。
しかし、ほんの僅かな光があれば、こんなに暗くてもAFが合うのかと驚くほどAFが合い、AFのスピードも精度も問題なかった。何よりそのアクティブAFの特性としてAF誤動作があることが分かってからE-10のAFに信頼感を持てなくなっていたので、AFの動作に不安を感じることなく撮影に集中できるのは嬉しかった。
そして暗いところが明るく写るというデジタルの特性はE-10の時にも充分驚かされたのだが、標準でもISO1600が使え、画質を気にしなければISO6400相当まで増感出来るD100は、もはや暗視カメラ並じゃないかと思えるほど暗い場所を明るく写す事が可能で、改めてデジタルの凄さに驚かされることになった。
画質的にも問題なく、35mmフィルよりは一回り小さいAPS-Cサイズだが、充分な大きさを持ったCCDなので、背景のボケも充分に大きくフィルムと比べても遜色ない描写性を備えていた。前述した85mmF1.4Dを使うと、被写界深度が非常に浅くなり、ピントが薄くなるのでヒヤヒヤするほどだった。
しかし、ISO1600の画質はE-10の最高感度であるISO320の画質と比べるとノイジーであり、画素ピッチの差が大きい割には増感特性は期待したほどではなかったのはちょっと残念だった。
だが、D100によって撮影可能な領域が格段と広がった事は事実であり、書き込み処理待ちからも、AF誤動作の不安からも開放された喜びは本当に大きかった。D100を購入した当時の僕は正に狂喜乱舞したい程の気分だった。
ところが思わぬ落とし穴が待っていた。それはシャッター音だった。D100はE-10の問題点は全て解決してくれたが、その代わりE-10の最大の利点だったシャッター音は、D100にとっては唯一の問題点となった。
勿論、それは最初から分かっていた事でもあった。E-10の問題点はその構造上回避不能だった問題点であり、構造的にその問題がないD100の場合は逆に構造上可動ミラーやフォーカルプレーンシャッターが存在するため、シャッター音の問題は回避不能であり、それらを両立させることは不可能なのだ。
購入する際、僕はD100のシャッター音はサイレントEOSと呼ばれたEOS 100と同等の大きさだと思い、EOS 100の時にシャッター音は問題にならなかったので、D100のシャッター音も許容範囲内だと判断したのだ。
だが、問題はシャッター音の絶対的な大きさではなく、音質にあった。EOS 100のシャッター音が低く抑えられた感のある音質なのに対し、D100のシャッター音はやや甲高く、残響音を伴うものだった。簡単に言うとD100のシャッター音の方がよく響き、よく通るのだ。
EOS 100のシャッター音は「ペシャ」という感じの頼りない音がして、一眼レフユーザーの多くが嫌いそうな音なのだが、D100のシャッターは「カシャッ」という切れの良さそうな、いかにも多くの一眼レフユーザーが好みそうな歯切れのよい小気味のいい音がするのだ。
この二機種のシャッター音を聞き比べると、静音性を売りにしたEOS 100を開発したキヤノンの開発陣が、シャッター音の大きさ自体を小さくするのは限界があるとして、いかに響かず、通らず、気にならない音色にする事に腐心したかが、改めてよく理解出来た。
D100を購入して有頂天と言っていい程浮かれていた僕は、うかつにもその点に気付かなかったのだ。
勿論、シャッター音に関して全く不安を持っていなかったわけではない。カメラを構えた状態では、手ブレ抑制のために顔をカメラに押しつけている事もあり、撮影者本人にはシャッター音は大きく聞こえ、それはEOS 100であっても同じだったので、撮影者本人には実際に他の人にはどの程度シャッター音が聞こえているのかははっきりとは分からない。
だから、D100で撮影をするようになった直後には、一緒にライブへ行った友人や、舞台撮影の際、隣の席に座っていた知人にシャッター音が気にならないか尋ねたりもしたのだが、その答えは「気にならない」というものだったのですっかり安心していたのだ。今思えば、それは遠慮して本当の事を言ってくれなかったのかも知れない。
そして結局はD100のシャッター音は気になるという指摘を撮影している出演者の方から受けるという事態になってしまい、早急に何らかの対策をする必要に迫られた。
ちょうどその頃、何とも絶妙なタイミングでニコンからD1シリーズ用として消音ケースプロが発売された。銀塩時代に一度用品メーカー製の消音カバーを試してみたことがあるが、ほとんど効果がなく以後使用していなかったが、カメラメーカー製であり、プロ用品として位置づけられている製品だった為、これが一気に問題解決の決め手になるのではないかと早速購入した。
しかし、購入後テストしてみてあまりの効果の無さに愕然とさせられることになる。そんなバカなと思って、何度も消音ケースに入れたり出したりしてシャッター音を聞き比べたのだが、どう聞いても同じ音の大きさにしか聞こえないのだ。
改めてD100のシャッター音がいかに良く通る音かということを思い知らされた。消音ケースプロはD1シリーズ用だから、D1のシャッター音の周波数に合わせて作られているのかも知れないが、とにかくD100のシャッター音の周波数は消音ケースプロに使われている吸音材では吸収出来ないのは確かだった。
他社製の消音ケースはどうだろうか。ニコン以外で当時消音ケースを発売しているのはミノルタだけだったので、ミノルタ製の防音防寒ケースも購入してみたが、やはり効果はほとんど無かった。
結局ソフトケースでは充分な効果は望めないと分かり、残る可能性はハードケースしかないと思い、調べたところジャコブソン消音ケースに辿り着いた。ジャコブソン消音ケースは20万円以上もして、別売のレンズケースは大小2種類がありそれぞれ5万円もしたので、おいそれとは手が出せなかった。
しかし、もう方法はそれしか考えられなかったので、D100用が存在しないため、他機種用のジャコブソン消音ケースを買って、それを模型製作の仕事をしている友人にD100に合わせて改造して貰うか、D100に合わせて同等品を作って貰うという方向性で検討する事にした。
だが、急転直下の出来事が起こり、結局ジャコブソン消音ケースを購入することなくこの問題は解決し、結果としてD100はメインカメラからサブカメラとその立場を変えることになった。
しかし、その急転直下の出来事もD100の存在があったからこそ起こった事だと言えるし、D100がメインカメラだった時期に撮った写真はD100がなければ撮れなかった写真であるのは間違いないので、D100を購入したことは全く後悔していない。
D100はデジタル一眼レフが本格的な普及期に入り、本格的な市場競争が始まったことを告げるターニングポイントになった機種と言え、カメラ史に名を残す存在であると思う。
by ko1kubota
| 2004-04-15 20:04
| Camera