2004年 12月 01日
井筒仁康選手引退 |
井筒仁康選手が引退を表明した。
今年は現在の全日本の最高峰クラスJSB1000のチャンピオンになり、8耐では宇川選手とのペアで悲願の優勝も果たした。
その直後に何故?と思ったのだが、理由は全日本チャンピオンになって8耐で優勝してもMotoGP参戦の希望が叶わなかったからと知って井筒選手の心境が少し理解出来る様な気がした。
カワサキ時代の井筒選手は圧倒的な強さで当時の全日本の最高峰スーパーバイクのチャンピオンになり、スポット参戦したワールド・スーパーバイクでもトップ・レベルの速さを見せた。当時はこれだけ速いライダーがWGPに参戦していないカワサキのライダーである事を残念に感じたものだ。
ところが、WGPが4サイクルでの参戦を容易にするレギュレーション変更を行ない名称をMotoGPへと変更すると同時にカワサキはMotoGPマシンの開発を発表し、同時に井筒選手はワールド・スーパーバイクに参戦を開始した。
僕は心の中で勝手に井筒選手がワールド・スパーバイクで海外のレース環境に慣れると同時に世界に通用する実力を証明して、MotoGP参戦を開始するときにはカワサキのエースとしてMotoGPへ転向するというシナリオを想像していた。
しかし、ワールド・スパーバイク参戦間もなく転倒して怪我を負った井筒選手はその実力に見合った結果を残す事なくワールド・スーパーバイク参戦を終了しカワサキを去る事になり、僕の勝手なシナリオは実現しなかった。
だが、その後ホンダへの電撃移籍が発表されて非常に驚いた。かつては8耐で闘志をむき出しにしてホンダに挑んでいた打倒ホンダの最右翼ライダーがそのホンダへ移籍する事になろうとは夢にも思わなかったからだ。
おそらくその時から井筒選手にはMotoGP参戦の夢を実現するにはホンダと契約するのが最良の道だという考えがあったのだろう。しかしホンダに全日本最高峰のタイトルをもたらしても、ホンダがMotoGPのタイトルに匹敵する価値があると力を入れている8耐で優勝してもその道が開かれる事はなかったのだ・・
現在最も多くの日本人ライダーをMotoGPへ参戦させているメーカーはホンダだ。MotoGPクラスには玉田選手、250クラスに青山選手。来年には250クラスに高橋選手が参戦する事も決まった。そして一度は大ちゃんの代役として早すぎるMotoGPデビューを果たした清成選手はHRCの岡田監督の元でブリティッシュ・スーパーバイクに参戦しているが、それはMotoGP復帰を視野に入れたものであるのは間違いないだろう。
青山選手、高橋選手、清成選手という若いライダー達は将来のMotoGPクラスのライダーの候補でもあると言えると思う。この状況で井筒選手のようなベテランライダーにMotoGP参戦のチャンスが巡ってくるのは難しいと言えるだろう。
しかし、それでもホンダ以外のメーカーからMotoGPへ参戦するのはもっと可能性が低い事も事実だ。今年はヤマハでノリックがMotoGPクラスに参戦していたが、ノリックは全日本時代ホンダのライダーだった。全日本でヤマハに250のタイトルをもたらしWGPに参戦したライダーには原田選手、中野選手、松戸選手の三人が存在するが、その内ヤマハでMotoGPクラスにステップアップ出来たのは中野選手一人であり、その中野選手も今はヤマハを去ってしまった。
スズキの場合は、全日本でスズキのライダーだった日本人ライダーがWGPへフル参戦したのは250の沼田選手ただ一人しか前例がなく、カワサキはGPに復帰して間もないという理由もあるが、全日本のカワサキライダーにMotoGP参戦の道が開かれているという印象はない。
そして、その傾向は全日本にワークス参戦が中止された事で益々強まって来ている。ホンダ以外のメーカーでは最も多くの全日本ライダーをGPに送り込んで来たヤマハも松戸選手に続くライダーは出ていないし、今後そういう動きがあるような期待を抱かさせる様な気配も感じられない。
このままでは全日本のレースのレベルは低下して、世界レベルかどんどん遅れて行ってしまうだろう。ホンダもその事を感じている為、かつては全日本250クラスで3連覇を達成した岡田選手に対して「まだ機が熟していない」とGP参戦を認めなかった様に、全日本で充分世界に通用する経験を養ってからGPへ参戦させるという方針を転換し、ホンダ・レーシング・スカラシップという制度を設けて若いライダーをMotoGPに参戦させたり、清成選手をBSBで経験を積ませているのも、全日本で長く参戦しても世界に通用する実力は身につかないと考えて、海外で経験を積ませるという方針に変わった事の現れだと思う。
今後は益々全日本のベテランライダーが世界へ進出して行くのは困難になって行く事だろう。確かに早くから世界に飛び出して行った若いライダー達が、これまでの日本人GPライダーを越える様な存在になっていくかもしれないという期待もない訳ではない。でも、全日本がその魅力を失って行ったら、それはレース人口の低下と底辺の縮小につながり、結局は優れた才能がなかなか現れ難いという状況を招いてしまうのではないかという危惧の方が大きい。
全日本最高峰クラスと8耐を制した年に引退する。それは過去にはとても考えられなかった事だ。ある意味、井筒選手らしいカッコ良い去り際だという気がしないでもない。
だがそれは日本のレース界が衰退への道を歩み始めた事を象徴する出来事であると思えてならない。
by ko1kubota
| 2004-12-01 02:34
| MotoGP