2004年 12月 06日
My Digital Camera Histry Vol.5 キヤノン EOS 10D |
僕がD100のシャッター音問題に悩まされていた頃、キヤノンからD60発売から約半年という異例の早さでEOS 10Dが発売された。
画質についてはキヤノンのEOS D60を支持するユーザーが多かったが、ニコンD100は価格の安さ、シャッターの切れの良さやロゴをエンボス処理したり、マグ・ボディを思わせる表面処理を施したプラ・ボディとは思えない質感のボディ等が高く評価され、品切れが続くD60を尻目に大ヒットとなった。世の中の評価としてはデジタル部の完成度の高いD60、カメラ部の完成度の高いD100というのが定説となった。
EOS 10Dはそれを強烈に意識したのか、マグ・ボディの質感の高いボディを採用し、AFの測距点を増やす等カメラ部のグレードを上げる大幅なモデル・チェンジが行われ、更にD100に負けていた高感度域もISO3200まで拡大しながら、より低ノイズ・レベルを実現する等画質面でもより進歩を遂げ、それでいてD100を上回る20万円を切る当時としては驚きの低価格で発売され大きな話題となった。
当然銀塩EOSユーザーだった僕も10Dに大きな関心を抱いたが、元々D60の暗所AF性能に不満を抱いていたので、AF輝度範囲がD60と同じEV0.5〜のままである事を確認した時点でやっぱりと大きく落胆し、早々に購入候補からは完全に外していた。
ところがD100のシャッター音問題を相談していたニコン・ユーザーのBBSで、「店頭デモ機の10Dを触ったらシャッター音が凄く静かだった。10Dへの買い換えを検討したら」というアドバイスいただき、既に10Dに見切りを付けた身としては複雑な心境だったが、どの程度のシャッター音なのかとりあえず確かめてみようという気になった。
早速、量販店の店頭で10Dのデモ機を触ってみると確かにシャッター音は小さい。元々キヤノンのD30/D60もシャッター音は小さい方だったと思うが、プラ・ボディからマグ・ボディへ変わった影響だろうか、音がよりこもる感じになったというか、あまり響かないよく抑えられた感じの締まりのある音色になり、実際の音の大きさ以上に静かに感じるという印象だ。
同じく店頭デモ機のD100とシャッター音を聞き比べてみて、実際の音量は確かに若干10Dの方が小さいものの、そんなに大幅に小さいという感じではないのだが、音色の違いで10Dの方が気にならない音色であるのは確かだと感じた。
後日、今度はニコン消音ケースを量販店に持参し、店員に断って店頭デモ機の10Dに装着してシャッターを切ってみると、やや騒々しい量販店の店内では全くシャッター音が聞こえない位だった。その瞬間「これはイケル」と感じた。
確かにそれは騒々しい量販店の店内だったからだろうけど、例えばアコースティック・ライブであったとしても、それなりの音量で演奏がされる訳であるから、これだったらほぼ気にならないレベルだろうという手応えがあった。
しかしそうなると惜しいのは暗所AF性能である。カタログスペックではD60と同等なのは分かっている。だが、多少向上していないだろうか?いや、向上していて欲しいという勝手な期待が芽生えてくるが、それは余りにも苦しい期待に思えた。
ライブ・舞台撮影に使うからこそ静かなシャッター音を求めていたのだが、ライブ・舞台撮影に使うからこそ暗所AF性能の高さが必要であり、それが両立していないと意味がないのである。暗所AF性能の高いD100はシャッター音がうるさく、シャッター音が静かな10Dはおそらく暗所AF性能が弱い・・どうしようもないジレンマに襲われながら、D100と10Dで店頭の商品棚の影等暗めな所でAFを合わせて比較を行ったのだが、やはり絶対的な暗さではないからだろうか、特に大きな差は感じなかった。
それでも、薄暗い程度もAFが迷ってなかなか合わないという評判を聞いていたD60よりは良いのではないか?という期待は残った。少なくとも薄暗い程度で迷ってなかなか合わないというレベルには思えなかったのだ。
そこでEOS DIGITALのユーザーBBSで情報を収集するとD60よりもかなりAF性能が上がっていて暗所AF性能も大幅に向上しているという報告が目に止まった。
そこでどの程度暗所でAFが合うのかユーザーの方に試して欲しいと頼んだのが、その結果はかなり期待出来そうなものだった。カタログスペックではAF輝度範囲はD60とは変わっていないのに、そんなに暗所AF性能が向上しているというのはどういう事なのか理解に苦しむ事ではあったが、D30の時もD60の時も少なからずユーザーからは暗所AF性能への不満の声が聞かれたものだったのだが、10Dのユーザーからはその様な不満の声は全く聞かれない事、D30やD60から買い替えたユーザーが実際に暗所AF性能の向上を実感している事から、暗所AF性能の大幅向上は間違いない事実に思えた。
これはもう買うしかない。そう確信した。流石にカタログスペックでAF輝度範囲がEV0.5〜の10DがEV-1〜のD100と同等の暗所AF性能がある筈はないだろうが、最低でもEV0〜のEOS 100やEOS-1Dと同程度の暗所AF性能があるのなら十分妥協は出来る。何より10Dのシャッター音の静かさは何物にも替え難い大きな魅力だった。
しかし、D100もDiMAGE 7Hiもクレジットで購入し、まだそれを払っている段階なので購入資金的にはかなり厳しい状況だった。D100と交換レンズをまとめて処分する事も考えたが、暗所AF性能に加えかなりノイジーとは言えISO6400相当までの高感度モードなど絶対的な暗所撮影性能はD100の方が高いのは間違いなく、手放す事は出来なかった。
勿論、一時はデジタルはニコンで行くと決意させられたモデルであり、D100があったからこそ撮れた写真も多くあり、その時の感動は忘れ難く思い入れのあるモデルだからという事も大きい。
止むなく一度は日常のスナップ用途に使おうと決めたDiMAGE 7Hiをオークションで処分し、その代金に追い金して現金で10Dを購入した。形的には現金購入だが、実質的には半額以上DiMAGE 7Hiのクレジットを乗り換えたという事だ。DiMAGE 7Hiが台数限定の特別仕様で、まだまだ人気があるのに限定台数がはけて店頭から新品が姿を消した直後だったので、結構良い価格で落札して貰えたのが非常に助かった。
購入後、早速D100とF値を合わせたレンズを装着して暗所AF性能の比較を行ったが驚くほどの好結果だった。AFが合わなくなる限界点はほぼ同じ、その手前のAFがギリギリ合う限界点ではEOS 10Dの方が迷いが大きいという程度の差だった。
実質的にはAF輝度範囲はD100と同等のEV-1〜の実力があると言って良いと思う。多少厳しい目で見てもEV0.5〜ではなくEV-0.5〜の方が正しいと思える。どうしてこれだけ高い暗所AF性能がありながらカタログ・スペックがEV0.5〜なのか疑問に感じる。上位機種のEOS-1DのAF輝度範囲がEV0〜だからそれに配慮しての事だろうかとうがった見方をしてしまう程だ。
実際の撮影でも暗所AF性能は充分だった。限界点で微妙な差があるとは言え、それは迷いが大きいか小さいかの差なので実際の撮影でその差を実感出来る程ではない。また高感度の違いに関してもD100のISO6400は本当の非常時には役立つ事もあるだろうが、出来る限り使いたくないと思う程ノイジーなので過去にもほとんど使った事がない為、10DのISO3200まででも不足を感じる事はほとんどなかった。
そして、D100の6枚分より3枚分多い9枚分のバッファ・メモリに加えシングル・バッファ式のD100に比べてセカンド・バッファ式の10Dはバッファの開放時間も速いため、書き込みに待たされる事も少なくなった。それでも連続撮影が続くと比較的早くセカンド・バッファの壁に当たってしまうのだが、それまでには結構余裕があるので、全く気にせずにバシバシ撮れるというレベルではないが、ある程度バッファ容量の残りを気にしながら撮影すれば、ほとんど書き込みに待たされずに撮影が出来る様になった事も嬉しかった。
また、元々銀塩時代からEOSを愛用していたのはその独自の背面コマンドダイアルを中心とした操作性の高さが気に入っていたからなのだが、その操作性の高さも改めて再認識した。そして、何よりも感動したのがこの背面コマンドダイアルを使用したISO感度の変更が非常に迅速に出来る事だ。
D100の場合はISO感度を変更するのにはメニューを開くか、モードダイアルをISO感度に合わせてコマンドダイアルで変更してから、モードダイアルを撮影モードに戻さなければならない。どちらにしても撮影中に急に照明の明るさが変化した時に素早く変更する事は難しいし、モードダイアルで変える場合は、手元が暗いライブ・舞台撮影ではより困難だった。そして、どちらにしてもファインダーから目を離さずに操作する事は不可能で、カメラを構えたまま変更する事は出来なかった。
だが、10Dの場合はISOボタンを一回押してから背面コマンドダイアルを回して変更して、シャッターボタンを半押しすれば撮影モードに復帰するので、非常に迅速に変更出来るし、ISOボタンは右手人指し指を伸ばせば押せるので、慣れるとファインダーを覗いたまま変更する事が出来る。そして軽い操作で迅速に確実に操作出来る背面コマンドダイアルの操作性がより迅速な変更を可能にしている。
このISO感度変更の操作性の高さはライブ・舞台撮影にとっては何よりも有り難かった。どうしても照明が暗い事が多いので高感度での撮影が多くなるのだが、高感度撮影はノイズレベルが向上するのは避けられないし、演出によって照明の明るさはかなり大きな幅で変化するので、照明が明るい時は可能な限り低感度で撮影したいのが人情だ。
実際、10Dでの撮影にある程度慣れてくると、照明の明るさに合わせてISO100〜ISO3200まで刻々と変化させてフル・レンジを使い切って撮影する事が出来る様になった。D100では不可能な事だったので、ある程度高めの高感度モードに固定しておいて、それではカバー出来ない暗さのシーンはブレてしまったり、逆に極端に明るいシーンでは白飛びしてしまったりという事を容認するしかなかったのだが、そういう妥協はしなくて済む様になった。
この様な撮影はおそらくEOS DIGITAL以外のデジタル一眼レフでは不可能なのではないかと思う。状況によって1カット毎にISO感度を変えられるのはフィルムには真似の出来ないデジタルならではの利点だと思う。特にライブ・舞台撮影においては非常に有り難い特性だが、撮影中に迅速に変更出来ないとその特性も生かし切れない。
この操作性を体験するともうD100には戻れなくなってしまった。思い入れのある機種なので今も処分はしていないが、現在では全く出番がなくなり、そのまま遊ばせておくのも勿体ないので知人に貸しっぱなしになっている。知人からは売って欲しいとも言われたが、手放す気にはなれず、また最新の機種なら充分に安い上にバッファ容量等は向上しているので新しい機種を買った方がいいとアドバイスしている。
キヤノンからは既に後継機のEOS 20Dが発売され10Dは現行機種ではなくなっている。しかもD60から10Dへの時以上の大幅に機能向上した20Dは最速1/8000秒のシャッタースピードや秒間5コマの連射能力、30コマから50コマまでの連続撮影が可能な書き込み速度の高速化、AFスピードの向上等魅力的な性能を備えている。
しかし、高速なシャッターユニットの搭載やバックフォーカスの短いEF-Sレンズに対応するためのスイングバック式可動ミラーが仇になったのか、シャッター音は平均的な一眼レフよりもむしろ大きめになってしまった。
特に書き込み速度の向上や、AFスピードの向上には魅力を感じるのだが、シャッター音の大きさから10Dの代替としては購入する事は出来ない。結局、暗所AF性能とシャッター音の静かさという特徴を兼ね備えたEOS DIGITALシリーズは10D一代限りという事になってしまった。自分の要求を満たす機種が同じメーカーにもこれ一台しか存在しないというのは、ある意味奇跡の様な出来事だと思える。その奇跡にはD100の存在が大きく影響していたのだと思っているので、そういう意味でもD100には感謝の気持ちを持っている。
今後10D並にシャッター音が静かなEOS DIGITALの新機種が登場しないとは限らないが、そういう機種が発売されない限り僕は10Dを使い続けるだろう。書き込み速度とAFスピードはもっと向上すればそれに越した事はないが、現在でも必要充分ではあるし、他に特に大きな不満もない。現在考えられる不満はファインダー内表示に現在のISO感度が表示されないという事くらいだが、それは現行機種の20Dでも同じだ。
よくデジタルカメラはモデルチェンジのサイクルが速く陳腐化が速いと言う人がいるが、僕に取ってEOS 10Dは当分陳腐化する事などないかけがえのない最高の相棒なのだ。
by ko1kubota
| 2004-12-06 20:22
| Camera