今日は
ラ・カメラ・シネマ・フォー・アイズを観に行く。これまではラ・カメラ・シネマ・フォー・アイズの上映は山田勇男監督・
山崎幹夫監督の新作上映会という意味合いが強かったが、今回は純粋な新作は山崎監督の「予感」のみで、山崎監督の上映プログラムでは寺嶋真里監督の作品も上映され、また
イメージリングス10周年記念プログラムも組み込まれるというやや変則的な形になっている。
いつもは山田監督のプログラムと山崎監督のプログラムが一緒に上映される日に観に行くのだが、今回はイメージリングスのプログラムと合わせて3プログラムが一日に一挙上映される日が設定されていたので、その日に観に行く事にした。
上映は山崎監督のプログラムからで「こぼれる黄金の月」は、バルブ撮影によるインターバル撮影の車載カメラの映像が、「2001年宇宙の旅」のスターロードのシーンを思わせる映像ドラッグ的作品。個人的には映像ドラッグ的な作品は大好きだし、非常にスピーディで気持ちの良い作品だと思う。また、8mmというホームムービー用カメラを使って、アイデアとマンパワーだけで、当時のハリウッド特撮大作のクライマックスシーンに迫る映像が撮れるというのが凄いと思う。
「セル、眠っちゃだめだ」は山崎監督の友人セルがアフリカ旅行で撮って来た8mm映像に旅先から山崎監督に宛てた手紙の朗読を乗せた作品。映像のテンポが速く、素人の撮った旅行の映像としては退屈せずに観られる。この辺は山崎監督のカメラワークからの影響もあるのだろう。
手紙の朗読もテンポが速く、じっくり内容を聞くのは難しいが、手紙というよりは自分に言い聞かせている様な内容だ。ちょうど先日観たばかりの「猫夜」とリンクしている作品でもあるし、その後のセルの人生の転機となったであろう旅行であり、その頃の心情を綴った手紙である事を思うと興味深い作品だ。
新作の「予感」は公園の通称タコ山と呼ばれる遊具の映像から始まり、最近の山崎監督の路上観察系の作品の延長線上の作品の様な雰囲気で始まるのだが、一転してラブホテル内で行われる怪しい儀式のシーンが展開し、多重露光やインターバル撮影等、山崎監督の得意とする映像テクニックを駆使する映像ドラッグ的作品へと変化していく。
そういう意味では、山崎監督の最近の傾向の作品と、以前より手がけている実験映像的作品が融合した作品と言う事も出来るが、元々がオムニバスDVDの為に依頼されて製作した作品という事もあり、手堅い作りの作品であって山崎監督らしい冒険は少ない作品という印象だ。
ただし、依頼された作品という事もあるだろうが、手堅い分クオリティは高く作品としての完成度は高い。最近の山崎監督の作品は以前から山崎監督の作品を観ている者はともかく、初めて山崎監督の作品を観る人には勧めにくい作品になっているという印象があったが、この「予感」は山崎監督作品の入門としては適切な作品になっていると感じた。
寺嶋真里監督の「幻花」は山崎監督は主演の老人が素晴らしいと絶賛している作品だが、寺嶋監督自身はその主演の老人が監督の指示を聞いてくれない為、当初のプラン通りの作品にはならなかった為、気に入っていない作品のようだ。それ故上映機会が少なく、山崎監督もこれまで観る機会がなく観てみたいとオファーして今回の上映となったという事だ。
確かに主演の老人の強烈な個性がこの作品の全てという感じだ。山崎監督が絶賛するのも理解出来るが、おそらく寺嶋監督からすると絶賛されればされるほど、主演の老人に映画を乗っ取られた様な気がして気分が良くないのだろうと感じた。
だが、これだけの個性を撮影出来る機会はそうそうないだろう。この老人が指示通りに演技してくれないのなら、当初のプランは全て捨てて、この老人と寺嶋監督のガチンコ勝負によるコラボレーション作品にしてしまったら良かったのではないかと感じた。
老人が寺嶋監督の指示に従わなかったのは、彼には彼の表現したい欲求があり、それが次々と湧き出て来たからではないだろうか?寺嶋監督がそれをもっとどんどん引き出していたら、もっと面白い作品になっていたのではないかと思う。
もっとも、寺嶋監督はそういう方向性の作品作りをするようなタイプの作家ではないのだろう。この老人と寺嶋監督の出会いはひとつの奇跡であり、その結果が山崎監督が絶賛する程の「幻花」という作品として残っているのは素晴らしい事だが、その出会いが作家としての寺嶋監督自身に取っては、あまり幸福な出会いにはならかったのだとしたら、少々残念な事だと思った。
山崎監督のプログラムが終わって、イメージリングスのプログラム開始まではラ・カメラ内に居残って、フィルム上映にこだわって来たラ・カメラ・シネマ・フォー・アイズでは珍しいビデオ上映用のプロジェクターの設置作業を見学していると、イメージリングス代表のしまだゆきやす監督がたった今パソコンで編集を終えて書き出したばかりで、まだ観ていないという作品を携えてやって来た。
イメージリングス10周年記念プログラムとして上映されるのは、10年前の作品である大嶋拓監督の「冷ややかな乳白色」と、正に出来たてほやほやのしまだゆきやす監督の「ドレメの女」の2本。
「冷ややかな乳白色」はオリジナルはVHSの作品らしく、今回の上映はDVフォーマットへコンバートされたもので、一部アナログノイズの目立つ箇所がカットされているとの事だった。
映写は8mmの上映の時と同じスクリーンに映写されるが、そのサイズでもジャギーがはっきりと分かりビデオの解像度の低さが実感出来るが、映像的には非常にクリアで綺麗ではある。しかし、クリア過ぎていかにもホームビデオ的な深みのない映像には、映像的な魅力はほとんど感じられない。映像的には免許の更新時に見せられる講習ビデオの様な印象だ。
しかし、内容的には自主制作映画の王道的な平凡な日常の中に潜むささやかな非日常を描いた作品であり、構成や役者の演技もしっかりしていて、自主制作映画としてはレベルが高い作品だと思う。映像の雰囲気と内容のアンバランスさが奇妙に感じられたが、よくよく考えると、この作品が8mmで撮られていたら、もっと自主制作映画らしい雰囲気の良い作品になったのではないかと思うが、今となっては8mmの映像は非日常的な映像であり、平凡な日常の雰囲気を出すには、今では一般的なホームビデオの味気ない映像の方がむしろ適していると言えるのかも知れない。
続いて上映された「ドレメの女」は台詞は一切なく、クラシック音楽に乗せた古着屋をロケーションに撮影された動くポートレートという印象の作品。映像は「冷ややかな乳白色」とは雰囲気がかなり違い、ジャギーがやや目立つ事を除けばあまりビデオ臭さを感じさせない。
10年のホームビデオカメラの技術的進歩もあるかも知れないが、ややアンダー目で撮る事によって色を濃く出し、奥行きを感じさせる映像を撮ろうとした結果だと思う。作品的には映像美に主眼を置いた作品であり、映像が美しくないと成り立たない。まだフィルムと同等とは言えないまでも現在のDVカメラは、撮影者が意図すればクリアだけど平坦な深みのないホームビデオ的な映像になってしまわない映像も撮れるレベルにあるという事だろう。
8mmというのは、今となっては敷居の低いメディアとは言い難いものになってしまっている。一方で、ビデオカメラで映画を撮る事は安易であり、安易な分映像的にも魅力が乏しいと思われがちである。
しかし、映像制作の敷居が高いと若い映像作家が育ちにくくなる事に繋がる可能性もある。8mmで映画を撮って来たしまだひろやす監督がビデオで作品で撮っているのは、ビデオでも映像美にこだわった作品を作る事も可能である事を証明する事で、映像作家の底辺を拡大したいという思いがあるのではないかと感じた。
続いては山田監督のプログラム。「蒲団龍宮記」は劇場作品の「蒸発旅日記」から派生した作品で、歌手の上野茂都さんが主演と音楽を務めている。「黒猫ミヴァ」は写真家アラーキー氏のモデルとして知られる秋桜子さんをモデルとしたポートレート的な作品。どちらも山田監督らしい美しい作品で安心して観られる作品だ。「黒猫ミヴァ」は前回の上映とは音楽が差し替えられていると後から聞いたのだが、前回の上映時の音楽がどんなだったか思い出せない。それどころか観終わったばかりの今回の音楽も思い出せなかった。
どうも映像ばかりに集中していたようだが、音楽がその映像に違和感なく溶け込んでいたのは確かだったと思う。
「ドイツ鈴蘭」は今年の始めに「独逸日録」というタイトルで公開されたものを改題したもので、今回の改題にあたりオリジナル音楽を安田美充央氏が手がけている。
実は「独逸日録」を観た時にはBGMに使われていたARVO PARTの音楽を気に入ってCDまで購入していたので少々複雑な心境だったのだが、流石に今回のオリジナル音楽は映像と見事にマッチしたとても素晴らしいものだった。
「ドイツ鈴蘭」は大部分がモノクロで撮影されているが、特に雨に濡れる路面のモノクロの映像がとても美しく、その雰囲気と良くマッチした音楽がやはりとても美しかった。
恒例の打ち上げには偏陸さんが手作りのカレーと豚足を持って駆けつけて下さり、豚足とカレーは大好評だった。
偏陸さんはイギリスでの写真家アラーキー氏の個展に同行して、イギリス、フランスを旅行されて来たばかりという事で、土産話に花が咲く。偏陸さんは今回の旅行ではデジタルカメラで写真を撮られて来たそうで、随分デジタルカメラを気に入られた様で、カメラの話になるとデジタルカメラを熱心に勧める程だった。
何年か前、やはりラ・カメラでお会いした際にデジタル一眼レフで舞台写真を撮っていると話したら、「デジタルよりフィルムで撮った方が良いよ」と言われた事を思い出したが、写真やカメラの事を良く知っている者程、一度デジタルカメラを経験すると夢中になってしまう事は良くある事だ。
それは僕も同じで、最近のラ・カメラの上映では良くご一緒になるChrome Greenの
吉本さんが今回もいらしていて、休憩時間の間も音楽やカメラの話をさせていただいたのだが、デジタルカメラの購入を考えているという吉本さんに、デジタルカメラの魅力を熱く語ってしまった。
帰りは下北沢の駅まで山崎監督と吉本さんとご一緒し、方角の違う吉本さんとは下北沢駅で分かれ、山崎監督とは新宿までご一緒した。打ち上げでは席が離れていたので、車中で今日の上映作品の話等を伺う。山崎監督はとにかく寺嶋監督の「幻花」を大絶賛されていたのが印象的だった